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夢は座席で安楽死。

観る→考える→想う→書く。

【舞台】くるみ割れない人間

舞台

くるみ割れない人間

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@OFF・OFFシアター
2017年1月25日~31日

http://yuukiyohey.wixsite.com/yuukiyohei/blank-4

昨年11月に旗揚げを行った結城企画の第二弾公演が早くも行われた。
どこかで聞いた事があるタイトルに「バレエをやります」の謳い文句。
これを観に行かないでどうする!というのでいそいそと演劇祭が始まる少し前の下北沢へ。

感想ぱらぱら

物語は陸の孤島、なんの共通点もなく集められたやたらと弁の立つ4人の男達と、それを見守る1人の女医。
クララと呼ばれる女医(未来)は彼らに「口だけ人間」という病名をつけて、バレエを使ったセラピーを行っているという。
ミュージシャンのレイ(富川一人)、ラーメン屋店主のミチノリ(眼鏡太郎)、ベンチャー企業社長のダイキ(佐藤銀平)、そして一見普通の好青年マナト(結城洋平)。
じょじょに自己の殻を打ち破り「口先だけではない自分の気持ち」をバレエで表現出来るようになっていくレイ、ミチノリ、ダイキ。
最後に残るのはマナトのみ……しかしクララは一向にマナトの診察を行おうとしない。
どうみても普通の青年に見えるマナトの病状とは?クララとマナトの関係とは?果たして彼らは4人揃ってこの島から出る事が出来るのか…!?

みたいな話。
終わってしまった作品なのでオチから書くと、マナトは大のゲーム好きでゲームに熱中する余りに「現実とゲームの区別がつかなくなってしまっている病気」で、クララの姉・ハイジの元夫である。
クララは、学生時代からマナトの事を知っており、自分が溺愛する姉を「この人になら任せられる!」と信じていたのに、結果的にマナトが姉の事を傷つけたのが許せず、また姉がそれでもマナトの事を心配してこの病院に送る費用を出資したのが許せず、マナトに正面から向き合おうとせず、診察も行わずにいた。
物語の最後では、マナトも自身の病気を少しだけ克服し、またクララもマナトに本心をぶつける事で和解をして、大団円、というところ。


私は「犬と串」の芝居を観た事がなかったので今回がモラルさんの脚本演出は初体験だったのだが、とても面白かった。少人数での1時間45分は少し長いのでは…?と正直思ったのだが、そんな事もなくしっかり楽しめた。
終演後に何人もの方が「モラルさんぽいわあ~」と口々に話していたので、今後他の作品もチェックしてみたいなと思う。
前回の「ブックセンターきけろ」がワンシチュエーションコメディだったのに対して、今回は様々な人の気持ちが交差するヒューマンドラマ的なコメディだったので、まったく毛色の違う舞台を同じ企画で観れて、それも面白い。

今回、主宰の結城くんのオーダーが「OFF・OFFでバレエが踊りたい」で、そこから話が広がり色々お任せしていたようなのだが、凄くセンスが良い組み合わせだなと思った。
バレエの「くるみ割り人形」のくるみを「自己の殻」と合わせて自己啓発の物語にしておきながら、更にそれでもう一度バレエを用いて、元ネタのくるみ割り人形の楽曲を使う。
しかもメインビジュアルのくるみの殻と中身が、ちゃんと人間の脳みそみたいになってるのが凄く面白かった。こういうセンスが欲しい。
「ああ~なるほどそういう事ね~」と思わされるものが沢山あって、けれど全てに意味があるわけでもなく、コミカルにまとめてる部分もあれば、勢いのギャグに頼る部分もあって、そのバランスが素晴らしかった。

私自身がそもそもの「くるみ割り人形」が好きで、楽曲も良く聞いている(どちらかというとバレエの作品というよりクラシック楽曲としての好き度合いの方が強いのだが)。なのでそれらの楽曲が使われていた事が嬉しかったし、「この曲が来たってことは…最後はやっぱり……そうだー!!」みたいな謎の喜び方が凄かった。下北沢OFF・OFFシアターで花のワルツを流しながら大団円を迎える演劇は凄い。


バレエのダンス自体に関しては、どちらかというとコンテンポラリーダンスに近く、けれど作品のテーマ的にはそちらの方が合っている気がしたし、そもそもバレエは一朝一夕でどうこうできるジャンルではないから、そこは魅せる方に特化して正解だったと思う。
けれど結城くんの身体能力が相変わらずわけがわからなくて(ダイキのバレエ披露の時のあれはなんだ、ひょっとこの役の動き方が意味不明に凄かった)、一回本気で取り組んでみたらどうなるのかな~という興味は別であった。
あと私がひたすらに本家の「くるみ割り人形」が観たくなってしまったのでどうにかしたい。こうやって「観たい」欲を誘発されるのは大変嬉しいしありがたいし、こうやってどんどん色々観に行けるのが本当に楽しい!


色々飛び出てくる小ネタは男性ウケの方がよいのかな~と思ったのだが、あんまりゲームをやらない私でもわかるレベルの「ファミコン世代あるあるワード」だったし、ロックマン扮する結城くんが「ティウンティウンティウン……」と言いながら倒れていくのが妙にツボで凄い笑ってしまった。
それから「クララ」はくるみ割り人形に出てくる主人公の名前なのだけれど、姉の名前が「ハイジ」さんで、突然アルプスの少女の方にひっかけてるのも面白かった。そうやって「わかると面白い小ネタ」を連鎖していけるのは凄いセンスだよなあ。
ちなみに今回一番笑ったのは「年末調整ってなんだよ」だった。わかる。そこはめっちゃわかる。

後、これは多分偶然起きてしまったことなのだけれど、結城くんの役名が「マナト」で、作中小学生になりきるシーンで「マナピーって呼んでよ!!」と言うシーンがあった。
この作品にもアフタートークゲストに来ていた劇団プレステージの大村まなるくん(結城くんと仲が良い事に定評がある)のあだ名が「マナピー」なのでそこが地味にじわじわ着てしまったし、どうやらアフタートークで本人も似たような事を言っていた模様。
後は作中「森の中で毒キノコがどれか当てる為にマナトとミチノリがキノコを食べる」シーンがある。
「結城くんが森の中でキノコを持っている」だけで喜ぶ層もまたいるので、偶然にも関わらずそんな楽しみ方が出来たのもとても良かった。


限りなくフィクションで「そんな設定はありえない」事ばかりなのに、登場人物の性格や言動が「こういう奴いるわ~~~」とキャラクターたちがリアルだったのが面白い。
自分の殻を破れない人たちが沢山いる中で、演劇という自己表現の手法をとって「自己表現」の話をするのはやっぱり面白かったし、そこにバレエという要素を入れてみたのも面白かったし、まだまだ面白いものは沢山作れるのだなと感心した。
終盤、フィナーレのダンスが終わった後に完全に「現実」からの影アナが入るのがたまらなくツボだったし、こうやって虚構と現実を行き来するのも面白いな~と嬉しくなってしまった。
客演陣もまるで今まで一緒に劇団でやってきたかのような息の合いっぷり、作品へのなじみっぷりが心地よくて、やっぱり「好きな人と好きな事をやりたい」という気持ちが叶って作品に出来るのは一番良いことなのだろうなあ。と、しみじみ思わされてしまった。


自分自身も「もっと沢山の可能性を観てみたい、もっと沢山のお芝居を観たい」と改めて思えた良い機会だった。
結城企画の次回公演の予定はまだ未定らしいのだが、これからもきっと楽しい作品を作ってくれると思うのでまた次回も楽しみ。