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夢は座席で安楽死。

観る→考える→想う→書く。

【舞台】土田英生セレクションvol.3 算段兄弟

土田英生セレクションvol.3 算段兄弟

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2015年7月1日~8月9日
三鷹市芸術文化センター 星のホール

http://cucumber-m.com/sandankyodai/


柿喰う客の七味まゆ味さんと大村わたるくんが出ているキッカケでふらっと足を運ぶ。
ヨーロッパ企画ナイロン100℃、親族代表など見知った名前の劇団からも客演がいっぱい。フライヤーがかわいかった。
星のホール、何気に好きなのだけれど、駅からかなり歩くので夏場は結構しんどくて行きは流石にバスに乗ってしまった。(普段はバス代をケチる)

舞台全体について

とある田舎の病院の待合室を舞台にしたワンシチュエーションでの会話がメインの…これはライトコメディかな。
もうすぐ息を引き取ろうとしている倉田哲郎の声により集められた、5人の腹違いの兄弟とその配偶者(と、友人)。
今まで兄弟の存在すら知らなかった彼らを急に呼び出した目的は「自分が死ぬまで兄弟と配偶者がこの場にいること」。
哲郎の内縁の妻や、病院に勤める薬剤師も巻き込んで、彼の目的は一体…と勘ぐりながらも、この場に残りたいもの、帰りたいもの、それを引き止めるもので病院内はバッタバタ。
そんな会話の中で変わっていく彼らの関係性と気持ちを描く。

みたいな、そんな感じ。大分ざっくり。
わりと緩やかに始まって、緩やかに進んで、緩やかに終わっていくお芝居だった。
けれどセリフの1つ1つに刺さるものがあったり、リアルな人間描写にイライラさせられたり、苦しくなったり、とても良い空間だった。


冒頭の少しの会話からの、タイトルがステンドグラス調に大きい窓に現れるのが、なんだかとても好きだった。その時に流れている音楽も、なんだかとても懐かしい気持ちにさせられる。
夏の昼間、夕方、夜を照明で演出するのなんて物凄く初歩的な技法なのに、音響と相まって何故だか妙にリアルで堪らない。
ノスタルジックな夕方の情景と、言い合いの言葉とが、全員しっかりとした大人なのに、どこか大人になりきれず、子供時代をやり直しているようなそんな空気さえあった。


作中、2回ほど時間の経過が起きる。それを表現する方法がたった1人の洋服の着替えだけで見せている、というのも面白かった。
1回目は「おや?」と思ったのだけれど、舞台上にあるセットを上手く利用してこういう風に時間の経過を表現できるのか~とまた1個新しいことを知った気分に。
あとは夕暮れから真っ暗闇に照明が落ちていく間の、あの無言の間が、この世界の中からなにもかも消えてしまったみたいで怖かった。
この感じは出来たらぜひ劇場で体感して欲しいところ。

物語と役について

この舞台、何が凄いって、話の真ん中にいる哲郎は存在していない(奥の部屋にいることになっている。)
そして5人の初対面の息子・娘達と、そのパートナー。そして現在の内縁の妻と、薬剤師という、正直情報量の多すぎる役どころが揃っている。
フライヤーが人物相関図になっているのだが、とうてい始まる前に覚えきれるはずも無く、とても混乱していた。…のにも関わらず、とても解りやすかった。
物語が始まって暫くは「どの人が誰で」と覚えるのに一生懸命になってしまったのだけれど、何よりここに登場する役たちも、互いについて詳しくは解っていない。
だからお互いがお互いを「どういう人か」と捕らえようとする描写が何度も登場する。
そしてその描写がとても自然で、かつ客席にもわかりやすい説明になっているお陰で、開始30分もすればすっかりどの人が誰で、どういう人で、というのが頭の中へと入っていった。
こういう説明ってくどくなりすぎるか、わからないままになるかの事が多いのだけれど、凄いなあと感心してしまった。


現代日本人あるあるみたいな役どころは、どの人たちもキャラが濃くて、でも「こういう人いる!」というのがとてもよくわかる感じ。
会話があまりにもリアルすぎて、腹立つシーンが複数あった(笑)
中でも印象なのが「粘着質」といわれている長男の洋一(竹井亮介)と、その妻のまゆみ(七味まゆ味)のやり取りがもーーーー腹が立つ腹が立つ!
ぐだぐだ同じことをしつこく責めたてて、言葉の揚げ足をとって、最終的にフロイトとか取り出してきちゃうこの感じがたまらなく腹立たしかった。
そしてあの腹が立つ夫に対して困り顔でいなすまゆみは良くできた人だなあと思ったり、私はこうはなれないな(すぐブチギレるので)と思って色々改めよう~と反省したり(笑)まゆ味さんがまゆみ役なので名前を聞く度にちょっとそわそわしちゃったり。柿関係だと男前のまゆ味さんを観る機会が多いので、新鮮。


個人的にお気に入りなのは長女の沙奈枝(村岡希美)の夫の吾郎(大村わたる)の2人組。
吾郎は年上の女性である沙奈枝に面倒を見てもらっている、心理学専攻の大学生なのだが、本当に子供じみていてかわいかった。
実際に近くにいたらイラっとするんだろうけど、なんとなく思慮が足りない感じとか、年上にべったりな感じだとか、物語として観てると物凄い愛おしいなあと思ってしまったり。
物語後半の「最近さっちゃんが冷たいんです」と、わざと礼服のネクタイをずらして現れてくるあの少年具合はたまらない…!大学生というか、小学生のよう(笑)
あとペリカンのキャラクターが普通にかわいかった~。


リアルな物語として、別に誰が悪いとか何が悪いとかではなくて、でも皆が一歩前に進まなければいけないという事を表現してる作品は、テンポ的にはゆったりかもしれない。
けれどリアルな「あるある」という会話の中で大切な事を色々教えてくれるので、観ていてより説得力がある。
あと、作中で何度も繰り広げられていた言葉連想ゲームが普通にとても楽しそうだった。
ルールとしては、参加者が紙に適当な形容詞を書き、せーの!でそれを発表する。そしてそれに当てはまるものを最初に言った人が勝ち、というもの。
(例えば「赤い」「丸い」「すっぱい」だったら、「トマト」みたいな。)
作中色んなものが移り変わっていく中で、唯一変わらないこのゲームのルール。
そしてこのゲームをやっている時の「概念」の話とか、最後の最後で「型に当てはめる事なんて」という言葉がかなり重くて。
概念として存在してるけれど目に見えないものを周りに納得させるには…みたいなくだりが個人的には好きだった。
ぼんやりゆったりこういうお芝居を観てると、やっぱり色々脳がクリアになる。
観ていてため息をついたり、なんとなくクスっと笑ったり、胸が締め付けられたり。大笑いして号泣して…というわけではないんだけれど、この空気感が好きなんだろうなあ。


後はやっぱり市営なり都営なりの芸術センターって綺麗だし見やすいし、今回のこの企画も物凄いチケット代を低く設定していて、いいなあと思った。
多摩の方はやっぱりどうしても足を運びづらい…という事は大きいだろうし、三鷹も駅から15分歩くので平日の夜とかは厳しいのかもしれないのだけれど。
手軽にお芝居に触れる、という面では安くて綺麗な場所で…というのもひとつ大事なポイントだよなあと思った。
ただし夏場に関してはやはり最寄り駅から遠いと体力面で普通に危険なので、その辺りは悩みどころ。
色々楽しい興行はいっぱいあるんだけれど、お芝居ってなんだろうとか演劇ってなんだろうとか、難しいことではなくここの所色々考えていて。
もうちょっとお客さんと「お芝居」とか「演劇」との距離感というかなんというかが近くなればいいなあと思った8月第1週だった。